日本ではじめてとなる、全寮制のインターナショナルスクールを開校した小林りんさん。
世界中の子どもたちが平等に教育を受け、それぞれの目指す道を切り開けるようにと作られたUWC ISAKでは、リーダーシップ教育をはじめとするさまざまなカリキュラムを経て、チェンジメーカーを育てています。
今回は、小林りんさんという人物にスポットを当て、プロフィールや教育に対する考え方をまとめてみました。
小林りんさんの経歴
小林さんは、福祉関係の仕事とボランティア活動に邁進し着実にキャリアを積む母と、転職や起業などを繰り返す自由奔放で破天荒な父の元で育ちました。
誰かのために行動を起こすという考えの源は、とくに母親の影響が多くあり、さらに自分の人生のなかでもさまざまな転機があったそうです。
日本の教育への疑問をきっかけに留学
小林さんは、日本の公立小学校・中学校で幼少期を過ごしました。
高校では多くの生徒は国公立大学へ進学を考えており、当初は小林さんもそのひとりでしたが、進学のためには5教科すべてで良い評価を得る必要がありました。
しかし、高校1年生の1学期から数学で赤点を取り、理科もギリギリ…という状態で、得意不得意がハッキリとしていた小林さんは、教師からも「進学が危うい」という話を受けたことで、「どうしてまんべんなくできなきゃならないの?」という思いや得意科目についてではなく、苦手科目について指摘を受ける指導方法に疑問を持ち、高校1年生のときに高校を中退することを決めたのです。
この時、国語や英語は得意だったため、その担当教師から「海外に行ったらどうか」というアドバイスを受け、奨学金制度を利用して2年間の留学へと進むのですが、これがひとつ目の転機となりました。
留学先は、ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)のカナダ校、ピアソン・カレッジです。
日本の学校のなかでは比較的得意だった英語でも、実践の英会話では言葉が出てこない・授業も難しいといったもどかしさを体験したと言います。
全寮制の学校なので、授業以外でも人とのコミュニケーションは英語です。
一対一ならなんとか集中できても、大人数ではシャワーのように会話が流れていくという苦い思いをしているなかで、同じように英語に苦戦しているメキシコ人の女の子と親しくなったのです。
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初めて訪れたスラム街で目の当たりにした貧困や格差
彼女の実家がメキシコシティにあり、夏休みを利用して訪れた経験が二つ目の転機となります。
ある日、彼女の家族に案内されメキシコシティ郊外のスラム街へ行ったとき、衝撃を受けたと言います。
スラム街では、ごみや廃品を積み重ねたスペースが家で、清潔な飲み水もなく、強いにおいと暑さやほこりのなかで身を寄せて暮らしている人々がいました。
小林さんは、日本で生まれ育ったので、安全に眠り、衛生的な環境で暮らし、身なりを整えて教育を受ける環境が当たり前でした。
しかし、目の前のスラム街では、教育を受けるどころかその日の食べ物や飲み水の確保さえ難しく、子どもが子どもをおんぶしながら歩き回る環境が当たり前だったのです。
この時の経験を受け、この先の将来、子どもたちが安全で衛生的な環境のなかで暮らし、平等な教育を受けるためになにをすればいいのか、そんなことを考えながら学校を卒業し、社会経験を積んだのち、国連児童基金(ユニセフ/UNICEF)での活動に携わることになります。
ユニセフでの活動を通して新たな疑問に突き当たる
ユニセフでは、フィリピンに常駐しストリートチルドレンの教育支援として読み書きを教えるサポートや職業訓練を行っていました。
自分たちの支援を受け、自立や成長していく子どもたちを間近に見ることができ、とてもやりがいのある仕事と感じたそうです。
一方で、途上国に常駐したからこそ深刻な格差も体感しました。
日々の暮らしで手一杯な貧困層の子どもたちをサポートしている人が、家に帰れば広い家に住み、何人ものハウスキーパーを雇い、優雅な食事を楽しんでいるという現実です。
フィリピンでの活動は、今、目の前にいる子どもを数千人と支援しつづけても、支援を待つ子どもたちは数十万人いて、その分母は増え続けるのです。
貧困層に対する支援だけでは、社会の上のほうへ働きかけることが難しいという状況のなか、もっと根本から見直すことが必要で、この格差の現状を理解し、社会の構造に疑問を持ち、変化を起こすために行動を起こせるリーダーが必要であるという考えに至りました。
そして、紆余曲折を経て、そのリーダーを育てるための学校「UWC ISAK」の設立へと続くのです。
2013年に京都で開催された「TEDxKyoto 2013」では、小林さんが登壇し「UWC ISAK」の設立について語る姿がみられます。
誰もが教育を受けられる社会へ向けて「リーダー」を育てる
貧困の現実や格差といった世界中にある大きな隔たりは、一朝一夕で無くなるものではありません。
現状を見つめて、問題提起し、多様な人たちと協力して社会の在り方を変えていくには、柔軟な考えを持った子どもたちを育てていくことが必要です。
そんな社会を変えていく「チェンジメーカー」を育てる教育についてみていきましょう。
ISAKの特色のひとつ「リーダーシップ教育」がなぜ必要なのか
小林さんは、ISAKは非常に多くの支援を受けて開校に至ったと話しています。
教育理念に共感し、資金や備品などさまざまな援助を受けて作り上げるなかで、日本は東日本大震災という大きな出来事に遭遇しました。
震災による影響で挫折も考える困難な状況ですが、援助の手は震災前より後のほうがはるかに上回ったのです。
社会問題だけではなく、環境問題、自然災害は世界のどこでも起こることで逃れることはできません。
しかし、そんな大変な思いを経験した人たちからもISAKへの支援があったのです。
状況に応じた判断や対応力、難しい局面でも粘り強く解決を模索し、周囲に助けを求めたり、反対に手を差し伸べたりといった能力は、頭では分かっていても、いざその局面にぶつかったときに動くのは容易なことではないのです。
ISAKの教育では、自分のことを見極め、成長させるとともに、仲間の個性を柔軟に認め、ときにはサポートすることも学びます。
こうした実践を積み重ねていくことで、目の前に大きな壁が出てきても、周囲や状況を的確に捉え、なにから着手すればいいのか、仲間とどう動くかを判断できるようになる「リーダーシップ」を身につけることができるのです。
近年で大きな困難のひとつといえば、コロナウイルスによる影響が浮かぶと思います。
学校や働く環境、家庭や街中にもたくさんの変化が出て、ようやく少しずつその状況に慣れてきたころです。
さらに最近では世界情勢の均衡が崩れ、また大きな困難や難しい状況になりつつありますが、こうしたできごとは今だけではなく将来に渡って、形を変えて出てくることでしょう。
今の子どもたちが辛い歴史を繰り返さないため、トラブルや問題を解決する糸口を見つけられるような教育がこれからのスタンダードとなれるよう学ぶ機会を作っていきたいですね。
これからの社会に必要なスキルを知ろう
すでに世界中と繋がれる現代において、コミュニケーションをとるためのスキルとして英語は基本となっています。
日本語にも難しいニュアンスがあるように、英語独自の文法や伝え方もあり、これは人と会話をすることで磨き上げていくものなので、少しでも早く経験を積み上げていけると良いですね。
他にも、これだけ広く深くネットワークが浸透している状況で、ITに関する知識やプログラミング的思考も大切なスキルです。
今は小学生の授業でもコンピュータをどう活用するか、どんな風に物事を捉えるかといった勉強が始まっており、どんな分野にもテクノロジーは大きく関わっているので、将来的に役立つものと言えます。
技術的なスキル以外では、世界にあるさまざま国や地域、そこに住む人々の生活習慣や考え方を学ぶことも大切です。
そして、理解を深めるには、実際にその人たちと接することが必要です。
ISAKが全寮制である理由のひとつに、一緒に生活をし、その仲間たちでルールを決めたり話し合いをしながら暮らしていくことで多様性を実感できるためというものがあります。
自分にとっての当たり前が、当たり前じゃない人たちと共存していくことの難しさや折り合いの付け方を実体験で身につけることができますね。
まとめ
小林りんさんの肩書のひとつに「教育アントレプレナー」があります。
言葉の意味としては、起業家に必要な精神や能力を教育するというものですが、積極的に夢や目標を語り、その実現に向けて行動を起こすことや「社会」を意識した活動を行うといった学習目標があります。
小林さん自身が直面した社会の現実に対して、根本から変えるために教育の場を立ち上げたいという強いエネルギーがISAKの実現へと至りました。
リーダーシップ教育の基本である、自分の個性や得意なことを柔軟に伸ばし、自分以外の人の個性や考え方を尊重し理解を深め、目標達成に向けて協力し合うというスキルは、世界が抱えるたくさんの難問を解決に近づけることでしょう。
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